【エッセイ×根津孝子】少し気が早いのですが、来年の手帳を購入した結果得た、大きな収穫。

今日は、2024年11月7日。東京に木枯らし1号が吹いたのだそうで、確かに秋本番の冷たい空気を感じる一日でした。「日本の秋はどこへ行った?」という声をよく聞きますが、これくらい寒くなってはじめてやっと、「今年もちゃんと秋が来たね」と思えました。

忘れられない記憶と季節を重ねると、確かに今年の秋は暖かいと気づきます。私の場合、11月の記憶といえば、11月9日が実父の命日。亡くなった3年前とは着ているものに明らかな差があります。その年のこの時期にはもうタイツを履き、薄手のコートを羽織っていました。今年はまだパーカーくらいで心地よく過ごせていたので、やっぱり暖かな秋なのですね。

トラウマについて少し前にエッセイを書いたのですが、トラウマとまではいかないまでも、日本の秋は、本当ならば季節の美味しいものが豊富に出まわり、とても過ごしやすい季節なのに、私にはなんだかモヤっとした晴れない気分がつきまといます。

専門家ではないので、それを鬱やトラウマというのかはかわかりませんが、あの時「人って死ぬんだ」と、当たり前のことをやっと芯からわかった気持ちになったことを思い出すのです。

勿論、いい大人なので、生きている者がいつか亡くなることくらいわかっていたはずなのに、身に染みて理解する、という感覚とでもいうのでしょうか。人って結局のところ自ら経験しないとわからないところが多大にあるのだと思います。

「この先も毎年秋になるとこんな気分になるのかなぁ?なんだかそれも嫌だなぁ」と、漠然と思いながらここ数日を過ごしていたのですが、少し気分も変えたいし、来年の予定がちょこちょこ入りだしたので、そろそろ来年の手帳を買っておこうと思い立ち、文具店に出かけました。

今どきはWEBでスケジュールを管理している人が多いのかもしれませんが、私は手帳が好きで、気分を変えたいとか言いながら、やっぱりいつもと同じ手帳を購入。もう30年くらい同じタイプの手帳を使っています。

2025年用の真っさらな手帳を手にしたら、まず例年通りの予定をばーーーっと書き込みました。そして、ちょこちょこ入っている来年の予定を書き込んでいきます……。今のところそれは、自分で立てた楽しみにしている予定ばかりです。書き込んでいるうちに、少しワクワクした気持ちになってきました。

そんな作業をしている時です、私の心を察したようなタイミングで、LINEのメッセージが届きました。誰かな?と思ってみてみると、そこには、数か月ぶりに、HさんからとてもHappyなメッセージが!

そのメッセージはなんとNew Yorkからで、「昨日のこと、ニューヨークシティーマラソンを完走しました。これで世界6大マラソンを制覇しました!」という内容でした。そして、メッセージとともに、Hさんがこの度手にした念願のワールドマラソンメジャーズの6個つながったメダルと、ニューヨークシティーマラソン2024の完走メダルの画像も送られてきました。

すぐに「おめでとうございます!やりましたね!」と返信をした私。

メッセージを返す携帯の画面が、なぜだか涙で曇りました。

H さんと私は、数年前、シカゴマラソンを走った時にツアーで一緒になり、互いに女の一人旅だったこともあって、マラソンの前後のフリータイムに二人でシカゴの街を散策したり、食事をしたりして、とても良い時間を過ごしたのでした。それ以来、季節の変わり目になると近況報告でLINEのメッセージをやりとりしていたのですが、私は日々のバタバタで、11月の初旬にニューヨークシティーマラソンが開催されることを失念……。

Hさんから届いたメッセージに、「そうだよ、そうだよ、11月だ!ニューヨークシティーマラソンだ!」と、自らの思い出を重ね、あの景色、あの足の痛み、そして言葉では言い表せないあの達成感の記憶が蘇り……。引き出しをゴソゴソ……。

あった、あった!完走証。私が走ったのは2013年。もう11年も前のことでした。

人間の記憶って本当に曖昧で、そして、嫌な経験の方が強く残りがちなのかも?いや、誰もがそうなのではなく、私がそういうタイプの人間なのか?なんてことを思いながら、11年前の11月、せっかくあんなに良い経験をしたのに、記憶が薄れている自分にとてもとても腹が立って、Hさん、思い出させてくれて本当にありがとう!そんな気持ちでいっぱいになったのでした。

そんなことを考えているとなんだかちょっと楽しくなってきて、手元に残っている過去数年の手帳で11月のページのみを振り返り……。

エへへ。手帳の中身は小さな文字がびっしり。というか決まった用事がなくても、走ったり、歩いたり、毎日動きまわっていました(笑)。我ながら落ち着きのない毎日。正直どのページを開いても、そう変わらない内容です。何かやっていないと、動いていないと気が落ち着かない、もうそれは性分のようで。

そうですね、まずは、何年もこうして動きまわっていられる健康に感謝せねばと、改めて思った次第です。

そして、「お父さん、悪いけど私は来年の11月になったら、まず真っ先にニューヨークシティーマラソンのことを思い出すからね!」と、ランニングの途中に秋晴れの空に向かって誓い、脳内の記憶の優先順位をリセット。

新しい手帳を買って、思わぬ大きな「秋の収穫」を得たのでした。

皆さんはもう来年の手帳を買いましたか?それとも今どきのWEB派ですか?

私としては、ぜひ手帳を推したいところです。