【根津孝子×エッセイ】2025年2月28日(金)公開映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』~これを観ずして世界のmusic sceneを語ることなかれ~

2月。バレンタインが近づいてきましたね。バレンタインといえばチョコレート。

チョコレートといえば、私はこの時期になると、2005年ジョニー・デップ主演映画、『チャーリーとチョコレート工場 』を観たくなります。

あのなんだかとてもヘンテコなミュージカルファンタジー映画が、甘~いチョコレートの世界を更に夢いっぱいの世界へ導いてくれて、何度みてもワクワクするのです。

そして、チョコレート繋がりでもうひとつお気に入りの映画、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』。

主演はご存知、ティモシー・シャラメ。

2023年に大ヒットしたのが記憶に新しいと思います。

この映画を観る前、私の中で、ジョニー・デップは絶対に超えてこないだろうと思っていました。ところが・・・・・です。スクリーンに映し出されたティモシー・シャラメにすっかり魅せられてしまったのです。

今回ご紹介する映画、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』。

主演はそのティモシー・シャラメ。

ティモシーといえば、まずその美しく整ったビジュアルから目が離せなくなってしまうのですが、本映画では、誰?と一瞬驚くほど、別人と化しています。

それもそのはず、ティモシーが演じているのは、若き日のボブ・ディラン。

でも驚くのはビジュアルよりもむしろ、吹き替えなしでティモシーが演奏する音楽、そして歌声。その完成度の高さは本当に圧巻です。

2025年のアカデミー賞🄬では、最高賞の作品賞をはじめ、監督賞(ジェームズ・マンゴールド)、主演男優賞(ティモシー・シャラメ)、助演男優賞(エドワード・ノートン)、助演女優賞(モニカ・バルバロ)、脚色賞(ジェームズ・マンゴールド、ジェイ・コックス)、音響賞、衣裳デザイン賞の、なんと8部門にノミネート。

3月3日(日本時間)の発表が待たれる、この春一番の注目作品です。

■ボブ・ディラン(83歳)本人が脚本を気に入ってくれた~監督ジェームズ・マンゴールド談。2025年2月3日ジャパンプレミア上映にて~

先日、公開に先駆けて開催された、ジャパンプレミア上映に登壇した監督ジェームズ・マンゴールド。

監督は記者からの質問に、「日本に来られて本当に嬉しいです。こうして皆さんにいち早く本作をお届けできることを、心から嬉しく思っています。ただ、映画を見る前にあまり長々と話すのは無粋でしょう。シェフが料理を振る舞う前にあれこれ説明しすぎるのと同じですからね(笑)。とにかく、まずは映画を味わってください!」と冗談を交えつつ、「映画製作にあたっては、とにかく長い時間をかけ、まず脚本のリサーチを重ね、執筆したものをディランに本人に読んでもらいました。すると、とても気に入ってくれて、“会おう”と言ってくれたんです。実際にお会いして、ディランの個人的でもっと感覚的なことを知ることができました。例えば、“この曲を書いたとき、どこに座っていましたか?”とか、“どの時間帯に作業していましたか?”といった質問をしました。映画というのは、その時代や場所、空気感を伝える力に優れています。単なる事実だけではなく、“その場にいたとき、どんな気持ちだったのか”という感覚的な部分を伝えることが大切だと改めて感じました。」と話していました。

また、「ディランは、脚本やアイデアについて感想は伝えてくれましたが“ここが抜けている”といった指摘は一切なく、むしろ、とても協力的で助けてくれました。」「彼の言葉、彼の存在が、この映画に魂を吹き込んでくれたと思います。」と話しました。

例えば、近年だと『エルヴィス』や『ボヘミアン・ラプソディ』など、ミュージシャンを描いた伝記映画はありますが、本人が存命で現役という伝記映画は過去においても大変珍しく、このように、映画監督と本人とのやりとりが作品のベースにあるだけに、仕上がりがとても繊細でリアリティがあり、音楽が思想や社会、経済に及ぼす影響など、世界のmusic sceneの分岐点を語る上で欠かせない、細かいエピソードの数々が盛り込まれています。

ゆえに、その世界のど真ん中を生きる若きボブ・デュランは、時に悩み、時に苦しみ、その度に彼らしい選択をし、生き進むのです。

少し音楽に詳しい人であれば、「あの時アメリカのmusic sceneで起こっていたのはこういうことだったのか」と、きっと合点がいくことでしょう。

ボブ・デュランは、2016年にミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞しています。

この映画で描かれている1960年代当時、米国の公民権運動やベトナム反戦運動を背景に「友よ、答えは風に吹かれている」と歌った『風に吹かれて』をはじめ、その歌詞が、時が経っても常に高く評価され、「偉大な米国の音楽の伝統の中に新しい詩的表現を生み出した」と称えられました。歌の力、歌詞の力を感じずにはいられません。

また、ビートルズや桑田佳祐さんなどもボブ・ディランの音楽や歌詞に影響を受けたというのは有名な話です。そういう余談を踏まえつつ、この映画を観ると、より楽しめるかもしれません。

■ティモシー・シャラメは本作を5年もかけて準備。珠玉のパフォーマンスで観客を魅了する!

俳優ってすごいな。いや、ティモシー・シャラメがすごいのか……。

それが、鑑賞後、私がまず感じたことでした。

それくらい、役であることを忘れさせるくらい、ティモシーはディランでした。

歌唱もギターやハーモニカの演奏も、すべて本人が現場で実際に行っています。

製作期間とコロナ禍が重なり、準備期間が5年あったのだそうですが、それにしてもその完成度はすごいと思いました。

ジェームズ・マンゴールド監督は、「彼と一緒にこの作品を作ると決めたのが2019年でした。最初に彼に伝えた言葉は、“ギターを買ってください”でしたね。それから6年が経ちましたが、彼がこの役にどれだけの情熱を注いできたかは、映画をみていただければ一目瞭然だと思います。」と話しています。

時期的に『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の撮影と重なっていると思うと、もしかして、めちゃくちゃファンタジーな世界を演じながら、頭の中はリアルなディランのことでいっぱいだったのかも?と想像すると、ちょっと複雑な気持ちになったのはここだけの話(笑)。

また、ボイスコーチのエリック・ヴェトロも、「ティモシーは本当に耳がいい。彼は本当に素早く感覚をつかむことができ、俳優としてそれを実行する方法を知っているんだ」といい、音楽プロデューサーのニック・バクスターは、「作曲するシーン、初めて誰かに曲を見せるシーン、演奏するシーンなど、ティモシーが様々な状況下で演奏できるという事実は信じられないよ。彼は何にも縛られない。立ち止まったり、マイクから離れたり、歌詞をめちゃくちゃにしたり、ハーモニカのソロを加えたり、テンポを上げたり下げたり、曲のペースを変えたりできるんだ」と、非凡な才能と表現力にこれ以上ない賛辞を送っています。

音楽ファン、映画ファン、ティモシーファン必見の映画、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』。

2025年2月28日(金)いよいよ公開です。

お見逃しなく!