【連載×ますだあけみ】春。始まりの春。母と私の新しい関係。

『国際結婚救助隊』隊長のあけさんです。

名古屋で結婚相談所を始めて12年目。以前は日本人同士の恋愛相談や婚活スクール、お見合を行っていましたが、5年前から東南アジアの女子達とのご縁を繋げて国際結婚のお手伝いをしています。

本エッセイでは、婚活に奮闘している男性に向けて、時には辛口な𠮟咤激励を飛ばしていきます。

春、年度替わりは引越しシーズンですね。人生の中で、引越しを経験する人は何割くらいなのでしょうか?

そして、あなたにとって引越しは、悪いイメージですか?良いイメージですか?

ある不動産サイトでのアンケートでは、10~50代では9割近くの人が引越し経験をし、10回以上転居している人も多くいます。これは不動産サイトのアンケートなので、データ的に引越し経験者が多いのかもしれませんが、人生で、進学、転勤、親や恋人との別れ、更新料と、引っ越しのきっかけは様々です。

昨年、喜寿を迎えた母が免許を返納し、調理師として働いている仕事を辞めて、名古屋に引越しをしたいと言いました。今は車で一時間くらい離れた場所に住んでいますが、母が名古屋に引越しをすることに、私は大歓迎です。

引越しに伴い、運転免許を返納することに何より安堵しました。後期高齢者になっても仕事も買い物も車生活が主流です。これまで母は事故もなく過ごしてきましたが、よくニュースでみる高齢者の事故を心配していました。

事故をわざと起こす人はいません。気を付けて運転していても「あっ!」と思った動作が取り返しのつかないことになるかもしれません。免許返納は母にとって勇気がいることですが、周りから責められる前に自分で返納の選択をしてくれました。

当たり前ですが、親も自分も歳を取っていきます。いつまでもお互いが元気ならいいのですが、そうとも限りません。人生100年時代と言われるようになり、若い頃や仕事をしている時は自由で一人でも寂しくないし、一人で生きていけると思いがちですが、この先どんどん歳をとり、思っている以上に長生きをしたとしたら……。

老人施設があるので、万が一の時は頼ることができます。お金を貯め、老後は施設で面倒を見てもらいたいと言う人がよくいますが、現時点で、リアルに施設の料金や内容を検索したことありますか?今後は物価高騰で料金もきっとあがってくるでしょう。また、入居して終わりでなく毎月費用はかかります。

今後、施設は満床、人出不足から縮小や閉鎖となり、私は、昔のように各家庭で看取らないといけない時期は近づいていると思っています。心配ばかりしていても仕方ありません。今回、母が自分から“動く”(引越し)をすると決断したことは大きかったと思っています。

引越しを決めたことで、名古屋での物件探しが始まりました。引越し経験者ならわかると思いますが、引越しはまず物件探しから始まります。予算と場所、希望条件を選択していきます。いいなと思っても他にも同じように検索している人が大勢いてバッティングすることもあり、空きがないと当たり前ですが問い合わせもできません。空きがあったとしても、借りる場合、信用審査があります。

母の条件は、「名古屋市千種区 バストイレ別 1LDKか2DK 家賃8万円以内 エレベーターあり」です。検索すると、賃貸なので、最初は7,360件あったのに、一つ一つ条件を入れていくと数が減ります。高齢者なのでエレベーターがある物件を選ぶと、あっという間に100分の1の物件数になりました。少ない選択肢の中で問い合わせをすると高齢者はお断りと言われます。新たに「高齢者歓迎物件」と選択すると、物件数が一桁になることに衝撃を受けました。近くに私や弟が住んでいてもNG、私名義で物件を借りて家賃を支払ってもNGと言われ、高齢者が増えていく世の中なのに貸してもらえない現実を知りました。

引越しをする必要のない人や家や土地がある人は動く必要がありません。しかし環境や家族構成は変化していきます。家や土地を守りたい、慣れた土地で暮らしたいということに反対はしません。住めば都で慣れ親しんだ地は離れがたいです。しかし、提案として、一度は”動いてみる”引越しを経験することで、見えていなかったものが見えてくることがあります。

住みやすいと思っていた土地も、実は移動してみると、買い物や病院にも通いやすいことがあると思うのです。年齢より性格によると思うのですが、新しい人間関係を構築することって面倒だから新しい場所に移動したくない人も多いと思います。結婚したくない人は、他人との人間関係が面倒くさいから独りでいることを選択しているのかもしれません。考え方を少し変えて、新しい出会いが楽しみだと思えば、自分から出会いの場へ足を運ぶことでしょう。

母に「名古屋に引越し後は何したい?」とたずねると「東山動物園にお弁当を持って通いたい」「近くのこども食堂でボランティアをしたい」と密かに楽しみを見つけていました。

婚活の現場にいると当たり前ですが、結婚したいと言う人ばかりです。しかし、結婚後は何をしたいか聞いてもわからないと言う人が多いのも事実です。また、親と同居してほしい、子どもが絶対にほしいから若い人がいい等、自分の条件ばかりを押し付ける人が多くいます。

物件探しと婚活はよく似ています。条件検索をしても相手から選ばれないと、次には進めません。会うことになりお見合後、うまくいっても終わりではありません。結婚後のイメージが出来ているかがすごく大切です。

引越しも同じで、住んでからも部屋の具合や隣人や環境が思っていたこととは違う場合もあります。また、どれだけ居心地が良くても、転勤や転職があるかもしれないですし、今後は親の介護などで、離職も考えられます。

結婚も物件も100%自分の条件に合うことはないのだから完璧を求めず、50%あれば上出来と思い、残り半分はこれから築いていくと考えたら、相手探しも物件探しも少しは楽になるのではないでしょうか?

そして、引越しも婚活も、受験や就職も、その後何をしたいかを決めていくことで、ゴールとスタートを見誤ることがないと思っています。

動けるうちに動くことで、凝り固まった固定概念が払拭されます。そうすると今までこうしなければと思っていたことが、実は自分だけの思い込みだったと気付くかもしれません。

実家から出たことがない、地元を離れたことがない男性は、婚活ウケが悪いのは、固定概念が強く、地元への拘りや人間関係を押し付けてくる傾向があるからかもしれません。そう思うとこれまでの皆婚時代、女性はほぼ嫁に行くので引越し経験者でした。動くことが前提だから女性は動き慣れていて、受け入れ上手なのかもしれません。

引越しを決めた母ですが、以前は田舎で小型スーパーをしていました。父の裁量がなく倒産してしまい家を強制的に出なければいけない時、「実家がなくなってしまうことが、子どもたちに申し訳ない」と言った母。そんな母に「お母さんがいる場所が実家で、建物じゃない」と言ってから25年。高齢者の物件探しは大変でしたが、今回は断捨離もできてコンパクトな生活が始まることに感謝。何より、来月から母が近くに来てくれるというのが、私も安心だし嬉しいのです。そして母の住む場所が私の新しい実家です。

「置かれた場所で咲きなさい」という名言がありますが、個人的には、「咲くことのでき場所へ移動した方が咲きやすい」と思っています。

春ですね。少し動いてみませんか?