春爛漫の4月。爽やかなお天気だと、どこか遠くへ行きたくなってソワソワ……。でも現実はそうそう遠くへ出かけられません。そんな時こそおすすめしたいのが映画鑑賞です。
最近のこと、ミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』と『白雪姫』を立て続けに観ました。おかげで全く違う2つのおとぎの国を旅した気分です。
アリアナ・グランデのハマり役ぶりに驚いた超話題作、『ウィキッド ふたりの魔女』。上映時間も161分と長く、なんだかとても得した気分(笑)。
今上映しているのは前編で、後編は来年の秋頃公開なのだそう。大作ですね!
もうひとつは、『白雪姫』。巷の評判はさておき、私は友人に薦めてしまうほど、好きでした。7人の小人が歌う「ハイホー♪ハイホー♪」のメロディーが耳に残り、帰り道の足取りも軽くなって、少女時代に時間旅行をした気分にもなりました。
同世代の女性は絶対に大好きな世界観だと思います。ぜひ観にいかれてみてはいかがでしょうか。
さて、今回ご紹介する映画は、観る人をどんな世界へ誘ってくれるのか……。
そのタイトルは、『クィア/QUEER』。

主演はあのダニエル・クレイグです。
ダニエル・クレイグといえば、やっぱり『007』のジェームズ・ボンド役が一番印象的ですよね。
6代目のジェームズ・ボンドとして、5作品を演じたダニエル・クレイグですが、それ以前の誰よりも、人間臭さを感じさせるジェームズ・ボンドだったと思うのは、私だけでしょうか?
5作品の中でも私が特に好きなのは「カジノ・ロワイヤル」。
愛する女性を救いたい一心でアストン・マーチンのハンドルを切るジェームズ・ボンドに釘付けでした。
ビジュアルの美しさよりも、大人の男の力強さ、色気、男の可愛さまでも感じさせ、「カッコ良すぎでしょ♡」と思ったものです。
7代目のジェームズ・ボンド役の情報は噂レベルでもまだ出てきませんが、ダニエル・クレイグの後は相当なプレッシャーだろうな、と思うくらい素敵だったと思います。
最近では、Netflixで『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』が話題になりましたが、そこにいるダニエル・クレイグは007のジェームズ・ボンドにユーモアをプラスしたような、これもまた、とても魅力的な男を演じていました。
そんなダニエル・クレイグが今回演じたのは、映画のタイトル通り、クイアという役。
俳優としてどんな新しいダニエル・クレイグをみることができるのか? それは007とは180度違う表情であり……。
■舞台は1950年代のメキシコシティ。主人公リー(ダニエル・クレイグ)の苦しくなるほど不器用な恋物語。
私がまず注目して欲しいと思ったのは、映画の世界なのに、まるで写真を重ねたようなアーティスティック且つ、独特な、その映像美でした。
1950年代のメキシコシティ。表現しづらいカサカサに乾いた街の埃っぽさと、アメリカからそこにきている駐在員、主人公リー(ダニエル・クレイグ)が一人で暮らしている程よい生活感のある部屋。
テーブルにはタイプライターと灰皿が置かれ、その灰皿は紙タバコの吸い殻で山積みになっていても、ワードローブやお酒、グラスはきちんと整っていて、決して部屋はちらかっていない。 その程よい生活感を感じさせる室内の風景が、写真としてどこを切り取ったとしても、センスのよい葉書やポスターになりそうで、映画を観ながら、「アート!アート!」とずっと感じていました。
また、300人の中から選ばれたという相手役、ミステリアスな元軍人ユージーンを演じた、新星俳優、ドリュー・スターキーの完璧とも言えるその美しさと、老いを隠し切れないダニエル・クレイグとの二人のコントラスト。
二人がそこに佇んでいるだけで、恋の切なさを物語っているようで、悲しい結末を予感させてしまうのです。

■あまりにも自然、且つ、リアルに感じられるのは、脚本の良さのせいなのか?卓越した演技力のせいなのか?
リー(ダニエル・クレイグ)は劇中、南米の森を訪れるシーン以外の殆どで、白いツーピースを着ています。例えばそれが、007のジェームズ・ボンドを演じるダニエル・クレイグであったとするならば、超あか抜けた着こなしに感じたことでしょう。
しかしそれが、リーの場合、真逆の印象を受けます。決して似合っていないわけではないのですが、なぜかとても孤独でくたびれた印象に映るのです。
劇中、時の経過とともに、汗と、街の埃と、テキーラで汚れ、白だったツーピースがうっすらベージュがかったようにみえてきます……。
次第に目立つようになっていく、爪の黒い垢もまた然り……。
そのような、とても繊細な演出に、時代背景と場所、その時代を生きる主人公リーの生き辛さが映し出されているのです。これもまた、本映画の見どころのひとつであると思います。

■ダニエル・クレイグの名演が様々な映画賞を賑わせている。
本作品は、2024年第81回ヴェネチア国際映画祭のワールドプレミアにて、第96回ナショナル・ボード・オブ・レビューで作品トップ10に選出。ダニエル・クレイグが主演男優賞を受賞。
第82回ゴールデングローブ賞では、主演男優賞(ドラマ部門)でノミネートを果たしました。
『007』で俳優として、男として世界を魅了し続けたダニエル・クレイグ。
そんなダニエル・クレイグが、役者としてまったく新しい顔をみせてくれたことに賛美を送りたい。まさに、ハリウッドスターの底力をみせつけられた映画といえるかもしれません。
【あらすじ】
1950年代、メキシコシティ。アメリカ人駐在員のウィリアム・リーは、青年ユージーン・アラートンと偶然出会う。一目で恋に落ちたリー。リーの誘いにユージーンも気まぐれに付き合うのだが、共に時を過ごしても、リーの孤独感は募るばかり。リーは、一緒に人生を変える奇跡の体験をしようと、ユージーンを幻想的な南米への旅へと誘い出す……。
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映画『クィア/QUEER』
公開日:2025年5月9日(金)
※新宿ピカデリー 他 全国ロードショー
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ダニエル・クレイグ、ドリュー・スターキー他
原題:Queer/2024年/イタリア・アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/137分/字幕翻訳:松浦美奈
映倫区分:R15+
配給:ギャガ
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