New York マンハッタンの街角で2$のピザを食べながら

|Takako Nezu

2020年1月中旬。私は今、ニューヨーク、マンハッタンに来ています。旅の目的はただひとつ。私の著書『「すきやばし次郎」小野禎一 父と私の60年』のPRのため。PRなどというと、きちんとしたスケジュールが組まれていて、きちんとアポイントもあり、と思われるかもしれませんが、そうではなく、まぁ、いわゆる突撃訪問です。

出発前、旅の目的を身近にいる人たちに話しても、誰も驚きませんでした。普段から突拍子のない奴だというレッテルを貼られているからなのかもしれません。そもそも”本を書く”という話だって突拍子もなく、何も決まっていないところからのスタートだったのです。今にして思うとオオカミ少年的なことにならなくてよかったと本当に思います。ただ、こうして言葉にすることでいい意味でプレッシャーになっていたのかもしれません。だからというわけではありませんが、今考えていることを、少しだけここに記しておきたいと思います。

ニューヨークの複雑で濁った?いや、どこよりも澄みきったようも感じられる不思議なその空気が、少しでも読者の皆様へ伝わりますように。

約1年前の愛犬の死と、New York行きの飛行機で出会った1本の映画

愛犬が亡くなったのは2018年の12月のことだった。たまに会う友人に、「あんこちゃん(*愛犬の名)は元気?」と聞かれると、ここ1年は、「亡くなった」という話をしてきた。なぜか結構クールに話すことを心がけていたように思う。「15歳と3か月の大往生でした。心臓を患っていた。最後の方は本当に苦しそうだったので寿命だったのでしょう。」という具合に。でも実のところ私はとても悲しかった。そして想像以上のダメージもあった。

けれど、ちょうどその時期は家で本の原稿を書く作業をしている真っ最中で、最後に愛犬と一緒にいられる時間が沢山あったこと、そしてきちんと最後のおみおくりができたことで悔いはなかった。それでもやっぱり今も悲しいし、このことについて「悲しい」という以外の言葉がみつからないのは事実である。

亡くなってからというもの、何かをしていると、ふと「もしもいたら」ということが常に頭をよぎる時間があって、その度に頭の中でふむふむと現実を受け入れる作業をしてきたように思う。

今回のニューヨーク行きだが、もしもいたら、年老いた犬を置いてまでは絶対に来なかったし、来れなかった。そして、この旅行を思いついた時もそうであったが、飛行機に乗るとまた思い出し、「何というタイミングで逝ってしまったのだろう」と、変わらない悲しみの中にありながら、ある意味感謝もした。日常の生活でもそうであったが、つくづくよくわかった子(犬)で、最後の最後までいい子(犬)だった。

そんな気持ちを持ってニューヨークに向かう飛行機の中で、私は1本の映画に出会った。それは、ガース・スタインが2008年に発表した小説「エンゾ レーサーになりたかった犬とある家族の物語」を原作とした映画「ジ・アート・オブ・レーシング・イン・ザ・レイン」だ。

公式サイトより引用

犬の目線で、犬の言葉で、飼い主と犬との関係、犬の生涯が語られている。よくあるストーリー展開と言ってしまえばそうなのかもしれないが、今の私にはとても刺さる内容で、ニューヨーク行きの飛行機の中で偶然にも観たことに意味を感じてしまったのだった。この映画を、ペットを飼っている人、ペットロスに陥ってしまっている人にはぜひおすすめしたい。

こうして飛行機がジョン・F・ケネディ空港に到着し機内を出た時、私はやっと”愛犬の死”というものを受け入れられたような気持ちになっていた。

マンハッタンにある紀伊国屋書店を訪問

滞在2日目の朝。その日は覚悟していたこの季節のニューヨークの寒さも気にならないくらい暖かい朝で、ホテルから徒歩で20分くらいかけてマンハッタンの6番街にある紀伊国屋書店へと向かった。紀伊国屋書店はブロードウェイミュージカルが沢山上演されているエリアのほど近くにあり、店の前に立つと、「日本の本屋さんすごいぞ!頑張ってる!」と誇らしくなってしまった。

レジの人に事情を説明すると、運よく責任者の人に会うことができたのだ。その人は日本人の女性だった。私は本はきっと入荷していないだろうと思っていて、もしも入荷する機会があればと、手書きのPOPと手紙を持参していた。PCですぐに本のタイトルを検索する責任者の女性。そしてすぐにその女性から返ってきた言葉は、「入荷、ありましたよ。でも既に完売しています。すぐに再入荷しますね!」という信じられない言葉だった。

そうして私は、いつか、近い将来、この本が英語に翻訳されることを夢みていて、日本人の素晴らしい鮨職人のフィロソフィー、親子のストーリーを世界中の人たちに伝えたい、という話をした。その女性は、「そうなるといいですね。応援しますよ。こちらに何か問い合わせがあったらすぐにご連絡しますね」と言ってくれた。

そうだ、ここは夢を抱く人たちが集まるところ、New Yorkだ。私は改めて、こうしてここまで来くることができたことに心から感謝した。

大都会の真ん中にあるセントラルパーク

その日の午後に向かったのは、特別な思いのあるセントラルパークだ。セントラルパークといえば、ニューヨークのシンボルのひとつで、私が初めて海外でフルマラソンを走った、毎年11月に開催される、ニューヨークシティーマラソンのゴール地点でもある。少し冷たい空気はまさにあのフルマラソンの時の記憶とリンクして、ゴールした後の、あの何とも言えない達成感を思い出していた。

そして、周りを見渡すと、そこには犬を連れた人も沢山いて散歩を楽しんでいる。(相棒だった愛犬が、いろんな犬たちに会わせてくれたのかもしれない。)声をかけるとどの飼い主さんも優しくて、人懐こい犬ばかりだった。

ホテルへの帰り道。マンハッタンの街角にあるピザのお店に立ち寄った。大きな三角にカットされたピザが1枚、2ドルで食べられる店だ。それはびっくりするほどおいしいピザだった。私はピザをほおばりながら今日1日を振り返っていた。なかなか面白い一日だったと。

ニューヨークへ来てよかった。そして、やっぱりニューヨークが大好きだ。

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