クリスマスも終わり、2024年も終わりが近づいてきました。
年の瀬になると、メディアは今年起きた世界中のニュースを振り返り、それをみていると、まだ終わりがみえない問題も山積みで、いつまで続くのだろう?と思うこともしばしばです。
私の住む東京、原宿界隈は元々観光の街ですが、この1年、驚くほど海外からの観光客が増え、日によって日本人より外国人の方が多いのではないかと思うくらいです。
きっとこの状況は続くのだろうなと思いながら、人で溢れた街を毎日歩くのですが、「せっかく日本にやってきたのだから、旅を存分に楽しまなくちゃ!」というワクワクした雰囲気が伝わってくる旅人たちを目の当たりにすると、私も旅が大好きなので、「その気持ちわかる!エンジョイ♪」と思うとともに、時々なぜだか、えもいわれぬ違和感を覚えることがあります……。
今年最後にお届けするエッセイは、そんな違和感のようなものがきっかけとなって生まれた、 2025年1月31日(金)公開の超話題作、映画「リアル・ペイン〜心の旅〜」をご紹介させて頂きます。
⚫️監督・脚本・制作・主演はジェシー・アイゼンバーグ W主演にキーラン・カルキン。全米で大ヒット!アカデミー賞®最注目作品
ジェシー・アイゼンバーグといえば、俳優として2010年「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー賞®主演男優賞に輝き大ブレイク。その後、監督デビューも果たし数々の映画祭で高評価を得るなど、その底知れぬ才能に驚くばかりです。
今回も少し陰キャラでオタクな雰囲気を醸し出した彼らしい役柄で、そのセリフ回しや行動に、冒頭から「何かが起こる」ことを予感させ、すぐに映画の世界へ引き込まれてしまいました。
W主演のキーラン・カルキンは、2024年、TVシリーズ「メディア王〜華麗なる一族〜」にて、第81回ゴールデングローブ賞®、第75回プライムタイム・エミー賞の主演男優賞をW受賞し、各方面でその神がかった演技力が絶賛されました。カルキンといえば、クリスマスになると毎年定番でTV放映される『ホーム・アローン』のスター子役、マコーレー・カルキンを思い出す人が多いかもしれません。キーランは、マコーレーの2歳下の弟です。本当の兄弟、どことなく似ているような気がしますよね。
また、本作品は、現地時間12月9日に発表された、第82回ゴールデングローブ賞®のノミネーションで、作品賞(ミュージカル/コメディー部門)、主演男優賞ジェシー・アイゼンバーグ(ミュージカル/コメディー部門)、助演男優賞キーラン・カルキン、脚本賞(ジェシー・アイゼンバーグ)の4部門にて堂々のノミネートを果たしました。
●神がかった主演二人の演技に目が離せない
物語のはじまり……。従兄弟であるデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)とベンジー(キーラン・カルキン)は、これから二人で旅にでるためニューヨークの空港で待ち合わせをしています。空港で二人が再会するシーン。それぞれに、らしい言葉で、らしい表現で、その時を迎えます。
もうそのシーンを観ているだけで、これから起こるであろう何かに、心がざわつくのです。
それぞれのキャラクターに血を通わせる二人。二人の共演は、間違いなくそこに演技を超える何かを感じさせてくれます。
旅の目的は、亡くなった最愛の祖母を偲んで祖母の故郷のポーランドを旅するため。かつては兄弟のように育った二人ですが、大人になりそれぞれの環境で今生きています。そう、生きているのです。
スクリーンに登場した時から表現しづらい危うさを感じるベンジー。
一方、妻と子供もいてイマドキな定職をもち、真面目でしっかりとした印象を与えるデヴィッドですが、実はこっそり強迫性障害の薬を飲んでいます。
その演技力ゆえか、どちらの人物も、今を生きるどこにでもいそうな年相応の現代人にみえてきます。
⚫️撮影はポーランド、ワルシャワにて全てロケ。劇中の音楽は全てワルシャワの天才児と呼ばれたショパンの調べにのせて
映画製作にあたりジェシー・アイゼンバーグは、彼自身の旅と彼の家族の歴史に忠実でありたいと考え、ワルシャワで、実際の場所で撮影することに拘って挑みました。
以前、ともにユダヤ系アメリカ人である妻と自分たちのルーツを探ろうとプライベートで2週間ポーランドを旅した時、ホロコーストにより迫害された人たちの強制収容所を訪れるツアーに参加し、そのような折、ふとネットでみつけた「ホロコーストツアー(昼食付き)」という広告に嫌な感情を覚えたことが、物語を書くきっかけになったとも話しています。
歴史の恐怖を目の当たりにするために訪れるツアーに昼食付きという快適さを求めることに、ジェシーは違和感を覚えたのでしょう。
映画の中でもこの体験を連想させるシーンがあり、観る者をハッとさせます。
また、劇中で使われる音楽は全てショパンの調べ。その揺れ動く感情にずっと寄り添い続けます。
しかし、あるシーンだけピタっと音が消え、セリフもなく、ただ映像が流れ、静寂になるシーンが訪れます。そのシーン、その静寂の中においては、なぜか演者が演者でなくなっているような気がするのです。この映画だからこそできた、そして撮ることに大きな意味のあるシーンであると思うのです。
⚫️旅は終わり、人生は続く……。印象的なラストシーン
旅の終わり。空港での別れ。それぞれに続く心の旅の行方は?
くっきりと印象的な旅先での出来事のあれこれとは対照的に、あまりにも平穏、あまりにも曖昧なラストシーン、そして二人の居る(帰る)対照的な場所。そのコントラストに、最後の最後まで心が揺さぶられます。
ベンジー役を演じたキーラン・カルキンは、それぞれの役柄についてこんな話をしています。
「幼少期の二人はとても仲が良く、兄弟のようだったんだ。大きくなってからは疎遠になり、この物語の多くは、二人がそれぞれをどう受け止めたかを描いているんだ。一人はそのことを乗り越え、かなり順応しているように見えて、もう一人は、その特別な関係に関しては少し成長が止まっているように見えるんだ」「この映画を観た人に、私の人生にはベンジーがいると言われたことがあるよ。あなたにもいる?」と。
また、ジェシー・アイゼンバーグは、「ベンジーが本当の主役なんだ。キーランの素晴らしさのおかげで、ありがたいことに、観客は観続けて解き明かそうとするんだ」と、本作品について話しています。
映画を観た後、誰もがきっと、「自分は、デヴィッドとベンジー、どっち寄りの人間だろうか?」と、自分について解き明かしたくなることでしょう。
大人になるということが、日々心に生まれる様々な葛藤や違和感と上手く折り合いをつけて生きていくことであるというならば、ある意味それは正しいし、ある意味それはとても寂しいと思うのは、きっと私だけではないのでは?
映画「リアル・ペイン〜心の旅〜」は、観る者に、その物語の余韻とともに、それぞれの人生の物語を紡いでいくための豊かなエッセンスを与えてくれるに違いありません。必見です。
★2025年1月31日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
★映画「リアル・ペイン~心の旅」公式サイト