【エッセイ×根津孝子】ウクライナとロシアの戦時下で私の歯ぎしりが悪化?!

2022年も3月に入り、日によって、ぽかぽか陽気に心も足取りも軽くなる季節がやってきたが、何をしていてもウクライナとロシアの戦時下のことが頭から離れず、晴れやかな気持ちになれずにいる。

人には表と裏の顔、つまり表面的な部分と内面的な部分があり、人には言えない悶々とした悩み、そして沸々とした怒りのようなものと日々闘っているものだと思う。

少なくとも私はそうだ。私の1日、24時間は、日々、そういった「悶々」や「沸々」にどれくらい占められているのだろう?と考えた時、一日の半分以上を占めている。

つまり、それくらい自覚症状がある。表面的にはとても穏やかそうに見える(←自己評価が高めですみません)私でさえそうなのだから、だいたいの人は、日々何か、自分の中の沸々としたものと闘っているのではなかろうか。

まさにそれこそが人生なのかもしれない。

先日、もうずっと通っている近所の歯医者さんへ定期的な歯のクリーニングに行った時のこと、「根津さん、相変わらず噛みしめが酷いみたい。奥歯の状態が……。痛みはありませんか?こりゃ寝てる間にだいぶ歯ぎしりをしてるっぽいな」と先生に言われてしまった。

まぁこれは、行く度に毎回言われることなので、「毎日いろいろ、悔しいことが多くて(笑)。日々闘ってるんですよ、こんな私でも……。とりあえず、ナイトガードが破けちゃったんで、新しいのを作りたいです~」と言って、歯のクリーニングついでに型をとりなおし、新しいナイトガード(寝る時につけるマウスピース)を作ってもらうことにしたのだった。

私の噛みしめや歯ぎしりが酷くなった理由が、ウクライナとロシアの戦争のせいだとは言えない。それは正直わからない。けれど、この戦争が始まってから、私の頭の中が「悶々」や「沸々」でいつもに増して忙しくなったのは事実である。

無意識にネットでも真っ先にそのニュースに目がいく。そして私の貴重な、そう、とても貴重な24時間のうち、結構な時間をそのネットサーフィンに費やしては、また悶々とする。(君、暇なの?と言われそうですが、暇でもそこに時間を費やしたくないんです、本当に。)

正直、コロナやパラリンピックや芸能ゴシップなんて、今の私はどうでもよくなってしまった。

それでなくても人は日々、もっともっと個人的なこと、家族のこと、子供のこと、仕事のこと、お金のこと、健康への不安、人間関係の悩み、それにプラスして、急に洗濯機が壊れてしまった、とか、カギを失くした、とかいう日常の細かなトラブル、また、あの人が今日私に言ったあの一言がほんと腹立つ!とか、言い出したらきりがないくらい、考えることがモリモリで、脳みそが忙しいのだ。

あぁ、それなのに、こんなに重く、暗く、不安になる出来事なんてほんと欲しくない。人生にこんな時間はいらなかったとつくづく思う。

私の大切な1日24時間を、そんなことに占領されたくないのに、気がつくとやっぱり考えてしまう。

「自分が生きている間に戦争は起こって欲しくなかった」と身近にいる人たちはよく言う。「もしかしたら自分は平和ボケしていたのかもしれない」という友人もいた。

平和ボケ、言われてみればそうなのかもしれない。

昨日のこと、ネイルサロンへ行った。もう何年も3週間に1度のペースで通っている場所である。そこのサロンは、4席あり、嫌でも隣同士の会話の内容が聞こえる。ここ最近はすっかりコロナの話もしなくなり、以前のように、ぞれぞれの席でとりとめのない(楽しい)会話が戻ってきていた。

「あのドラマ観てますか?」「Netflixでやってる〇〇が超面白い」「〇〇がカッコいい」「〇〇がかわいい」等々が主な会話の内容だ。

私はそんな会話をいつも耳をダンボにして聞いている。そのサロンは私よりだいぶ若い世代の人たちが多いので、その内容はわかったりわからなかったりするけれど、ある意味私にとって社会の窓のひとつでもある。

その日は、私以外のお客さんもネイリストもおそらく20代だったのだが、どの席からも戦争の話が聞こえてきた。

「まさかって感じですよね。この時代に」

「コロナの後は戦争とかもう、ほんとマジでやめてくれって感じ」

「ロシアの人がみんなでプーチンを殺すしかないですよね」

「もしも戦争になったら、ネイルサロンとかこの世に一番いらないもんですよね。私たちの仕事、速攻でなくなりますよ」

など。ここに書けないような少し過激な話になっている席もあったのだが、それでさえも、私的には納得できる内容で、でもネイルサロンでする話の内容としてはすごく違和感もあって……。

「何なんだ?この時間(時代)って」と、とても不思議な感覚になったのであった。

皆いろいろ考えているのだ。自分たちに何ができるかはわからなくても、何もできなくても。

そして、見かたを変えれば、それぞれの人の大切な1日24時間が、この戦争に様々なかたちで侵されている。本当にこんな時間は私たちにとって必要のない時間だったのにと思うけれど、どうしようもない。

ただ、一日も早く終わって欲しいと、それだけは、皆が口をそろえて言っていた。

「悶々」や「沸々」は人生の大半を占めるのは否定できないけれど、今、リアルに起こっている戦争の話は重くて、さすがに脳みそが疲れてしまう。

この分だと、せっかく新調したナイトガードの寿命も短かそうだ……。ギリギリ、ギリギリ……。ネットをググりながら、ふと気が付くと食いしばっている私。

先生はそんな私の状況を知ってか知らずか、「前回のより、厚めので作っておきました」と言っていた。おぉさすが先生!気が利くじゃ~~~ん。感謝。

3週後、また私はいつものように同じネイルサロンへ行く。3週後、果たしてそこで聞く会話の内容は変わっているのだろうか?できればよい方向へ変わっていて欲しいと思うし、それなりの解決をし、もう話題にすらならないような事になっていて欲しい気もする。

ネイルサロンがいつものように、面白いドラマやNetflixの情報を得られる、そんな私にとっての社会の窓に、早く戻って欲しいと切に願う。