【編集後記】「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年│装画家・装丁家という仕事

私の初めての著書、『「すきやばし次郎」小野禎一 父と私の60年』が発売になり、早一カ月が経ちました。既に読んで下さったという方々(本当に、ほんとうに有難うございます)、これから読もうと思っている方々(有難うございます、宜しくお願い致します)、そのうち読もうと思っている方々(お忙しい日々をお送りなのでしょう、でもそのうち必ず)、読む気がない方(そ、そんな……)、そんな本が出たことさえ知らない方(う、うぅ……)、そうですね、いろいろな方がいると想像しています。

世に出したからにはできるだけ多くの方々に届けたい、届きますように。著者としてはそう願うばかりです。改めて、どうぞ宜しくお願い致します。

「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年
CCCメディアハウス (2019-09-28)

わかっていたことではありますが、人というのは、目標や目的を果たしたと思ってもまたすぐにそれが生まれ、そこには必ず不安が同居していて、不安から解放されることなどないのだなぁと、それが生きているということなのだなぁと、最近よく思うようになりました。

そしてその不安を少しでも拭い去るためには、やっぱり行動を起こすしかないと思い、手書きのPOPを持って、時間をみつけては今コツコツと書店巡りをしています。置いて頂ける書店さんも多くとても有難いです。

POPには、本の装画にもなっている消しゴムはんこを使っています。装画家、金子良さんの作品です。仕事仲間でもある良さんは、文章も書き、デザインワーク、Web制作をこなすマルチな人。

ある日のこと、良さんが「これつくるのすごく楽しいんですよ」と言いながら、趣味で消しゴムはんこをつくっているのを目にしました。小さなナイフでサクサクと迷いなくカットされていく小さな消しゴム。まずその迷いのない手早さに驚きました。

ひと目でその作品が気に入った私は、その時から、もしもいつか私が本を出す機会に恵まれたら、良さんの消しゴムはんこを装画に使いたいと思っていました。

私には芸術のことはよくわかりません。ただ、こうして本が完成してみると、それは正解だったように思います。本の雰囲気にとてもよく合っていると思いませんか?

装丁家、三村淳さんとの出会い

本の中にも少し書かせて頂きましたが、具体的に何も決まっていない状態から取材を始め、原稿を書き進めながらいくつかの出版社に企画書と原稿を持ち込みました。今思うとそれは、不安と挑戦の連続だったようにも思います。(そうして、CCCメディアハウスさんより出版できる運びとなりました。)

持ち込んだ原稿には、消しゴムはんこを各章毎に挿入していました。1章書く毎に、良さんに読んでもらい、その内容からイメージした消しゴムはんこを作ってもらっていたのです。

私は毎回ワクワクしながら消しゴムはんこの完成を待ちました。そして出来上がる毎に、「やっぱり良さんの消しゴムはんこ、いいなぁ」と思いました。

そしてとても嬉しいことに、そう思ったのは私だけではありませんでした。本の装丁の打ち合わせをしに出版社に行った際、そこにいらしたのが装丁家の三村淳さんだったのです。

私はもちろんその時が初対面で、出版社の方から三村さんが本の装丁をして下さるということで紹介を受けたのですが、三村さんは開口一番、「この消しゴムはんこ、なかなかいいですね、装画に使いましょう」とおっしゃいました。

三村淳さんといえば、その世界では知らない人がいない人物。そんな人にいいですね、と言ってもらえた良さんの消しゴムはんこ。私の目に狂いはなかったと、ちょっと自慢でもあります。そんなエピソード思い浮かべながら、本を読んで頂けるとまた楽しいかもしれません。

装画家 金子良からのメッセージ

趣味で始めた消しゴムはんこが、いつの間にか本の挿絵になるなんて、本当に思いもしておりませんでした。根津さんが消しゴムはんこを使ってくれたこと、そして約一年にわたり、 『「すきやばし次郎」小野禎一 父と私の60年』 に携われたことに感謝です!

消しゴムはんこを作るのにインタビューごとの原稿をリアルタイムで見せてもらっていたので、まるでドラマを観ているような感覚だったのを覚えています。

徐々に明かされていく小野禎一さんの人生。そして、それを追うライターの根津さん。根津さんを知っている私が読むと、二人が重なる瞬間があったりして……。

私にとっては「根津さんと小野禎一さんが1年に渡って、一緒に人生を振り返った本」だったのかなぁと思っています。

そして、それを読む私を含め読者の皆さんも、人生を振り返ってみたり、またはこれからの人生を考えるきっかけにさせてくれる、本なのだと思いました。

最後に消しゴムはんこについて。挿画家としてこんなことを言うのもなんですが、消しゴムはんこの良し悪しって、技術の上手い下手で決まらないんです。

編集の方とミーティングをしているとき、装丁家の三村さんが「失敗したところは、そのまま残してくれ(その方が消しゴムはんこの味が出る)」とアドバイスをくださったときに、ハッとしたのを覚えています。

よく見ると粗があったり、変なところもあるかもしれませんが、消しゴムはんこの良さ「味」なんですよね。そんな「粗さがし」も含めお楽しみ頂けたら幸いです。

「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年
CCCメディアハウス (2019-09-28)

根津孝子 (ネヅタカコ)
1970年、熊本県生まれ。フリーライター。
実践女子短期大学を卒業後、新日本製鐵、パソナグループを経て2006年フリーに。2004 年、養父母とともに初めて「すきやばし次郎」を訪れて以来、現在では月に一、二度通うほどに。毎年、二郎さんの誕生日に長い手紙を送るのがいつしか習いとなった。